みなさま、明けましておめでとうございます。
今年最初の記事で、しかも突然のお知らせで恐縮なのですが、
この度、このブログを無期限の更新停止にすることを決めました。
昨年の8月からという短い期間ではありましたが、この間に他のブロガーの方々と新しい交流が生まれたり、著者の方からコメントをいただいたり、また書いた記事が感想文コンテストで賞をいただいたりもしました。続けていく内にだんだん良くなっていくなという実感もなくはありませんでした。
しかし、悩みに悩んだ末に今回、更新停止という結論にいたりました。
もちろん、一般的に、今まで続けてきたことを突然止めるというような決断には、それなりに多くの理由が重なった上でという場合がほとんどだと思います。私の場合も、このような自分にとっては大きな決断に至った理由は、何か決定的な1つの要因によってもたらされたものではないと認識しております。
このブログのひとまずの締めくくりとして、
今回、私がビジネス書の書評ブログを止めようと決断した様々な要因の中から、
3つを取り上げてお伝えさせていただければと思います。
これは全くの偶然なのですが、その3つの理由を改めて考え直してみると、驚くことに3冊の本の影響から生じていることに思い当りました。このブログも書評ブログの端くれだったので、最後もきちんと本を紹介して締めたいと思います。
本によって始まったブログは、本によって終止符を打たれる運命だったのかもしれません。
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それでは理由をお伝えしていきます。
私がこのブログを止めようと決めたまず第一の理由は、「この分野でナンバーワンにはなれない」と判断したからです。
ビジネス書のブログ界にはご存知の通り、キラ星のごとき有名ブログが多数存在しています。良質な本との出会いを提供してくれるだけでなく、記事自体読んでいて面白い素晴らしいブログばかりです。
あるブログは独自の感性でスゴ本を次々と切っていき知的興奮に満ちたブログを書かれています。ある方は年中無休で長文の記事をひたすら更新し続けるというパワーあふれるブログを書かれています。またある方は、専門知識を駆使して読むべき良書を説得力ある文章で薦めるブログを書かれています。
正直、ビジネス書ブログという分野で、私がどんなに頑張っても、このようなキラ星のごときブロガー諸氏にはどうあがいても勝てないと私自身は判断しました。
無論、ブログなんてものは趣味でやるものであり、その分野でナンバーワンを目指す必要なんてないという意見もあるでしょう。しかし、ブログは可能であれば毎日のように更新するのがベターなメディアですし、日々の多くの時間を取られることは確かです。時間を割くからには上を目指したいし、それに私自身中途半端なのが嫌いな性分という理由もあります。
私が「ナンバーワンになれないのなら止めた方がいい」という結論に至った過程で大きな影響を受けたのが、セス・ゴースティンの『ダメならさっさとやめなさい!』です。
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この本は書名の通り、成功するために「やめる」ことがいかに大切かを説いています。著者は、あらゆる職業において、自分が「世界で最高」になれる分野を見つけるべきだと主張します。そして、世界でナンバーワンになるためには、「運命の谷」という厳しい試練を乗り越える必要があります。
人生には無数の「運命の谷」が存在します。その中には自分がナンバーワンになれない「運命の谷」も存在します。それを著者は「行き止まり」と表現しています。著者は多くの人が、自分が一番になれない分野の「行き止まり」乗り越えようとして、労力と時間を無駄にし、成功するチャンスを逃しているといいます。
つまり、成功するためには、自分がナンバーワンになれる分野が何かを見極め、それ以外の分野はきっぱりとやめて、持てる全精力を、自分が一番になれる分野の「運命の谷」を這い上がることに、集中させなければいけないのです。
「『自分なら征服できる』と思える運命の谷を見つけ出すだけでなく、他に、行き止まりにぶつかって足踏み状態になっていることがあったら、そのすべてをきっぱりとやめる必要がある。」(P.52)
「今度何かをしていて『投げ出したい』という気持ちが湧きあがってきて、その時の成果が人並みだったら、『意味ある選択肢は二つに一つだ』と思い起こしてほしい。やめるか、とびきりの存在になるか、どちらかなのだと。平均点なら負けたも同じだ。」(P.70)
プロフィール欄にも書いている通り、私は昨年とある企業を退職し、これから大学院へ進学する身です。私自身、ビジネス書は大好きですが、ナンバーワンを目指すべき分野はアカデミズムであり、ビジネスではないのです。(それに実学ではないアカデミズムはしばしばビジネスと衝突しさえします。)自分の持てるリソースはすべて、自分にとって一番重要な分野に注がなければいけません。これが第1の理由です。
ブログ停止の第2の理由は、本当に、「物理的に時間が足りない」ということです。1番目の理由とも関連しますが、限られた時間をどう使うかで人生の質というものは変わってくると思います。人生は一度きりです。人生において本当に何かを成し遂げたいと思うのであれば、その分野にとって不要なことに時間を割いているヒマはないのです。少し窮屈でせわしない生き方ではありますが。
私がこのような考えに至るのに影響を受けた本は、日垣隆さんの『ラクをしないと成果はでない』です。この本の11節目に、「『つまらない』と思ったら、できるだけ早く撤退する」というものがあります。ドイツ文学者であり評論家の西尾幹二さんは、ある時「ブログをやめた」という話をされて、その理由が、今70代の自分はあと10年か20年か生きられないから、その間にどうしても書きたい本があって、ブログをやっている時間はない、と判断されたことだそうです。
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「『何かを残していきたい』あるいは『これだけはやっておきたい』というものをやるかやらないか。人の価値はそこにあるのではないでしょうか。」(P.38)
「自分の人生のテーマにとって、つまらないことなら、手を引きましょう」(P.39)
無論、私にとってビジネス書はつまらないテーマではありませんでした。しかし、自分の人生のテーマにとっては、優先順位は低い事柄であると考えました。無論、ブログのみを唯一の表現手段としており、ブログによって「何かを残していきたい」と考えている方は、ブログをずっと続けていくべきだと思います。しかし、他の分野で「何かを残していきたい」と考えているのであれば、その分野に関係ないのであれば、それは手を引くべきなのだと思います。
3つ目の理由は、「本を売るための文章を書くことに耐えられなくなった」ということです。この理由はもしかしたら、私にとって最も根深い要因かもしれません。
これは私の実感でしかないのですが、書評ブログというものの大半はビジネス書をメインにしたブログなのではないでしょうか。このことは人気ブログランキングの「本・読書」カテゴリなどを見ても明らかです。これだけビジネス書の書評ブログが増加しているのは、昨今のビジネス書業界で、「読んだ本をアウトプットせよ!」というテーゼが、ほとんど常識のように主張されるようになってきたことが大きく関係しているのだと思います。
ビジネス書の書評ブログは、元々ビジネス書に啓発して始められているため、自ずとビジネス書至上主義的な内容のブログが多くなります。また、ビジネスに関心のある方が運営しているので、多かれ少なかれアフィリエイトを目的としています。
そうなってくると、アソシエイト収益をアップさせるために、自然と読んだ本は手放しで称賛する必要が出てきます。また、ビジネス書業界では、著者の方が自著をブログで紹介してもらうことに熱心なため、自著の評判を知るために、日夜ブログ検索をかけていないという方はいないでしょう。そのため、好意的な書評を書けば、著者の方が見つけてくれて、御礼コメントももらえるというメリットもあります。
また、ビジネス書業界では最近「人脈本」が非常に流行っています。「自分自身が経済的に成功するために、人とのつながりを大事にし積極的に活用していこう」というテーゼが常識化しています。そのため、今や勉強熱心なサラリーマンは一昔前(?)のベンチャー企業家のように、とにかくひたすら人脈を求めて一緒にメシを食いまくるという日々になっています。そのような状況の中、書評ブログは格好の人脈構築ツールと見なされるようになり、ここでも著者に好かれることを目的とした迎合的な記事を書くことが求められてきます。
要するに、読んだ本を買ってもらうため、あるいは著者や他のブロガーとの人脈を作るため、というように、打算的に文章を書くということが、ビジネス書の書評ブログでは、意識的であれ無意識的であれ、強いられているのだということです。
無論、ビジネスマインドに基づいて打算的にブログを書くことが100%悪いことだとは思いません。それに、完全に自分の趣味で書いているだけという方ももちろんいらっしゃるでしょう。しかし、私の場合は、どうにもうまくやっていくことができなくなってしまったのです。ビジネス書の書評ブログをやるからには、ビジネスとしてもある程度結果を出したいし、それでも打算的な文章は書きたくないしという、矛盾した状態に陥ってしまったのです。
本を売り込むための文章、あるいは著者の顔色をうかがうような文章を書かずに、結果を出すという方法もあると思います。現にそうやって結果を出しているブログもたくさんあると思います。しかし、私にはそういう器用なことはできませんでした。正直、「この本はオススメです」という一言を書くことすら苦痛になってきてしまったのです。
私が打算的な文章を書き続ける内に段々弱まってきてしまった理由は、私自身のもともとの文章観に根ざしている気がします。私が大学時代に読んだ、桑原武夫さんの『文学入門』は、すぐれた文学に必要な3つの条件として、「新しさ」「誠実さ」「明快さ」を挙げています。この条件は文学を対象にしてはいますが、私にとっては「良い文章とはどういうものか」と考える際に、いつも戻ってきて参照する価値観の根っこのようなものになっています。
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この3つの条件の内の「誠実さ」は、それなりに込み入った概念なのですが、私は「対象に抱いた興味・関心・感動などを、読者に迎合することなく、誠実に表現し、あくまでその結果として読者にも感動をもたらし、かつ何らかの行動まで起こさせること」と理解しています。要は、良い文章というのは、いかなるものにも迎合せず、自分の気持ちや考えを誠実に表現することなのです。そのような文章観から、私は無意識的に打算的になっていくブログの文章に、次第に耐えられなくなっていき、結果止めることを決断したのです。
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以上が、私がビジネス書ブログを辞めるという結論に至った主な理由です。始めてまだ6か月足らずの幼いブログではありましたが、いざ止めるとなると、何か寂しい気持ちが生まれてきます。しかし、自分なりに長い目で見て考えての決断です。
ビジネス書というテーマでは行き詰ってしまいましたが、今後はアカデミズムの分野でまた新しいブログを立ち上げたいと思います。その際はハンドルネームを変更しているかもしれませんが、プロフィールや文章の雰囲気でもしかしたらまた見つけていただけるかもしれません。
最後になりましたが、1度でもこのような拙いブログにお越しいただき読んでいただいた方すべてに御礼を申し上げます。また、本ブログはしばらくは残そうと思いますが、更新自体は停止するため、リンクを貼っていただいている方は解除いただいてももちろん構いません。
短い間でしたが本当にありがとうございました!!